力強い能の代表作で、能では珍しく劇的な起伏と緊張に富んでいる。平家討伐に最も功のあった源義経（子方）も今は兄頼朝から追われる身となり、弁慶（シテ）らと偽山伏となり北陸道を行く。安宅の関にて足止めされたが、弁慶が当意即妙の勧進帳を読み上げ通過を許される。しかし強力に扮した義経が疑われ、弁慶は杖で散々に打ち、主君でない証しを見せる。弁慶の知略と豪勇で関所を突破していく。「勧進帳」の読み上げ、ワキへの詰め寄り、勇壮な〈男舞〉が魅せる大曲。歌舞伎十八番「勧進帳」のもとになった。

主人（アド）から、いつもの酒屋で代金なしに酒を求めてくるよう言いつけられ困った太郎冠者（シテ）。今日はお題を持ってきたと偽って酒樽をもらって帰ろうとするが、酒屋（アド）に取り戻される。そこで話好きの酒屋に楽しい祭の話を始め、浜辺の千鳥の様子を語る隙に、千鳥に見立てた酒樽をもって逃げようとするが――。

昔の中国のお話。揚子の市で酒を売る親孝行の男・高風(こうふう)（ワキ）のもとへ通っては、どれだけ飲んでも顔色一つ変わらぬ不思議な客（シテ）がいた。名を問うと「海中に住む猩々」と言い、姿を消す。月の美しい夜、酒を壺にたたえて待つ高風の前に猩々が浮かび出て、酒を汲み、舞を舞い、高風の孝の心を誉め、汲めども尽きぬ酒壺を与える。猩々とは想像上の動物で、不老不死、百薬の長ある酒の効用を讃える、祝言性に満ちた曲である。「乱」とは能『猩々』の特殊演出で、通常にはない特別な足使いを見せる。曲目を略して「乱」としている。