第八回 復曲試演の会

公演日時:2025/06/15(日・SUN) 13:00~
主催:京都観世会
演目:
   (講演)―月は露 つゆは草葉に宿かりて―
         法政大学名誉教授 西野 春雄

   (復曲能)宮城野       片山 伸吾
   (能)  春日龍神      井上 裕久
           龍女之舞
入場料:                  
    S席(1階正面指定席)  ¥8,000 
    A席(1階脇中正面指定席)¥6,000 
    B席(2階1列目指定席) ¥5,000 
    C席(2階自由席)    ¥3,000 

演目解説

宮城野 みやぎの
都北山辺に住む僧徹翁は、東国の名所旧跡を訪ねる旅に出て、陸奥宮城野(現宮城県仙台辺り)に着く。折から秋萩の盛り。中にも和歌に詠まれた下疎の萩(もとあらのはぎ)であろうかと思いつつ人を待っていると、少年が現れ、それは一般の萩であり、水のほとりに色濃く僅かに咲いているのが下疎の萩であると教える。そして僧を伴い宮城野を案内し、更に宮千代の塚へ連れてゆく。少年は僧の問いに答え、宮千代のことを語る。 ──昔、宮千代という少年は、この野の萩を愛し、昼夜を分かず遊んでいた。ある夜萩の露に宿る月影に感じ入り、和歌を詠んだ。しかし下の句がどうしても調わず、嘆いて亡くなってしまった。その執心が残り、今も夜な夜な宮千代の塚のほとりで、和歌を吟ずる声がする──僧は憐れに思い、その上の句を教えてもらえば、下の句を継ぎ、宮千代の手向けになそうと言うと、少年は喜んで「月は露 つゆは草葉に宿かりて」と詠み、僧は「憂き世の旅を 宮城野の秋」と継ぐ。御法を得たと喜ぶ少年の名を僧が問うと、自分こそ宮千代の幽霊と名乗り塚に消える。
そこへ陸中辺りの男が萩見物に宮城野にやって来て、僧に出会う。僧は男より更に宮千代のことを聞き、通夜をして弔う由を告げ、男は旅を続ける。やがて僧が弔うと、宮千代の霊が塚より現れ、宮城野の萩を愛で、萩を詠んだ和歌を連ねてゆく。そして今、僧の弔いを受けて迷いの雲も晴れたことを喜び、名残を惜しんで舞を舞う。やがて夜が明けるとともに宮千代の姿は消え、あとには白露ばかりが残っていた。
『宮城野』には、金春禅竹作の曲や、その可能性のある曲の言葉や手法が数多く取り入れられている。『雲林院』『小塩』『杜若』『女郎花』『雨月』『定家』『姨捨』など。作者は禅竹に強く傾倒している可能性がある。そして全体の曲調からは『松虫』が想起される。
和歌を愛し、都に憧れた宮千代と、鄙に憧れた都の徹翁が和歌の縁で結ばれ、萩を愛し、露と消えた宮千代がまた、和歌によって萩と結ばれる構図が、儚くも美しい一曲である。

春日龍神 かすがりゅうじん 龍女之舞 りゅうにょのまい
 栂の尾の明恵上人は、釈迦の仏跡を訪ねる修行のために入唐渡天(大陸に渡る)を志し、春日明神に暇乞いに出向く。社参の上人を二人の神官が迎え、入唐渡天を思い止まるようにという、明神の神託を伝える。即ち、明神がいかに上人を頼りにしておられるかということや、釈迦入滅後は仏跡を尋ねる意味はさほどなく、今は春日こそが仏跡に値すると説く。そして上人が入唐渡天を思い止まれば、三笠山に五天竺を移し、釈迦の一代記を目前に見せようと約束し、実は自分たちは、鹿島よりこの大和へ明神が移られた時にお供した、時風秀行であると明かして消える。
やがて辺りは金色の世界となり、龍女たちが現れて舞を舞うと、今度は大地が震動し、八大龍王が数知れない眷属を引き連れて現れ、釈迦の大会(説法の場)に参会する。そして上人が入唐渡天を止まることを確認し、猿沢の池へ帰って行く。
奈良のおおどかな気と、春日の光に満ちた祝言曲。「龍女之舞」の小書(特殊演出)では、間狂言がなくなることがあり、常には登場しない前ツレの神官と、後ツレの龍女が出る。謡の順序も一部変わる。後シテは大龍戴を戴き、より壮大な世界観を見せる。

出演者紹介
CAST

片山 伸吾
Katayama Shingo
日本能楽会会員

井上 裕久
Inoue Hirohisa
日本能楽会会員